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一周目の五月。
俺がアスガルドの局員となった時期と前後して、不審な狙撃事件が頻発していた。
ターゲットは異能力者ばかり。誰もが一様に犯人の姿を目撃しておらず、視認不可能な距離からの襲撃と見てアスガルドは調査を進めていた。
初めは何らかの敵対組織からの攻撃と考えていた俺達だが、戦闘で逮捕した敵の異能者からも似たような話を聞いたことからそのセンは消え、無差別的な襲撃とも考えられるようになっていた。
そんな折、俺に指令が下った。
「キミの通っている学校の、二見湊という女子生徒が狙撃犯である可能性が出てきた。念の為、彼女の動向を見張ってくれないかな?」
行き来する人でごった返すアスガルド波奈市支部、地下二階の中央ラウンジで、直々に出向いてきた支部長こと日比谷は、感情の読みにくい笑顔で俺にそう言った。
そうして翌日から俺は二見湊に注目するようになり、ストーカー疑惑を掛けられることになるのだが、それはまた別の話。
※※※
「あの時は俺も未熟だった」
監視任務の話である。監視対象にばれるならともかく、そこらの一般生徒にストーカー扱いされるようでは監視者失格である。当時の俺は監視のやり方なんて何一つ知らなかったし、ほとんど初の大きな任務に緊張していた、というのもあるにはあるのだが。
今は放課後。新学期始まってすぐということもあって、部活動なども行われておらず、校内はやけに静かだ。
まだまだ沈みそうにない太陽の光を身体の右側にばかり浴びながら、俺は廊下を進む。春休みの間は人通りがなかったからか埃の積もっている課外活動棟の廊下を端から端まで突っ切って、向かう先は家庭科室。
どうしてそんなところで行うのかは不明だが、保健委員会の活動は家庭科室で行われるのが定番となっていた。
「登校初日から二見さんに会えるなら、ペースは悪くないかな」
可及的速やかに彼女の“暗殺”を阻止し、アスガルド側に引き込む。
それが今の俺に課せられた使命だった。
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