第2章:上 一方的再開

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 ちょっと待って欲しい。俺は別に記憶力が悪いわけじゃないんだ。現に名前は思い出せないが顔には見覚えがある。誰だっけコイツ、見覚えはあるんだ。えーっと確か……。 「クロサワユウ!!」  少女が叫んだ。俺の名前だ……と思う。何故そんな持って回った言い方をするのかといえば、それは彼女が俺の名前を微妙に勘違いしているからである。  黒沢悠と書いてクロサワハルカ。女の子みたいなそれが俺の名前だ。読み方を間違えるということは、彼女と俺は初対面なのだろう。少なくともこの二周目の世界では。じゃあ名前分からなくてもいいか。 「誰だ? 多分初対面だと思うんだけど」  俺が言うと、彼女はトコトコと俺の方に駆け寄ってきた。『とってこい』をやった後の犬みたいだと思った。言わないけど。 「はじめまして! わたしは! 猫平かなめ! です!!」  少女、改め猫平かなめは一語一語区切って叫ぶ。近いんだから叫ばなくていい、とか犬みたいな見た目なのに猫平かよ、とかいろいろ言いたいことはあったが、まず一番最初に聞かなければいけないことがあった。 「どうして俺の名前を知っている? それに住んでいる場所も」  こいつは波奈南高校の関係者ではない。というのも服装が白いパーカーにチェックのミニスカートという完全私服で、俺のアパートに先回りするにあたって着替えたりしている時間はないはずだからだ。だとすれば考えられる可能性は一つ。こいつは非日常側の人間だ。  猫平かなめ……ねこひら……かなめ……。 「わたしは! 日比谷支部長の! 命令で! あなたを! アスガルドの! 支部まで! 護衛するために! 遣わさ――」 「わーーーーーーーーーーーー!!」  俺は猫平の口を押さえて大声で叫んだ。  なんだコイツ。こんな公共の場でアスガルドとか支部とか護衛とか大声で言いやがって。人に聞かれたらどうするつもりだこのバカ!  バカ……? 「あ、そうか」  コイツの名前を思い出せなかった理由が分かった。普段からバカバカと呼んでいて、本名を呼んでいなかったからだ。  そうだ、こいつは猫平かなめ。  アスガルド情報探索犯所属局員にして希代のバカ、猫平かなめだ。
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