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ようやく危機感が出てきたのか、もと来た道を引き返して探しにいこうとした猫平だったが三歩もいかないうちに人にぶつかって倒れる。前方不注意だ。気をつけろ。
ぶつかった相手は何か必要以上にあわあわしていたが、ぶつかった相手が猫平と分かると不意にほっとしたような顔を見せた。
相手は女性だった。猫平より頭一つほど背が高いが、年齢は同じくらい。眉尻の下がった気弱そうな顔をしている。
「ああ良かった、かなめちゃん。探してたんだよ」
「え! わたしを! ですか!?」
「うん。ハイコレ、廊下に落としてたよ」
そう言って彼女は手に持っていたカードとメモを猫平に差し出す。それこそ猫平の探していたIDカードとパスワードを控えたメモだった。よかった、支部内で落としていたか。俺は安堵し、大きな溜息を吐いた。
「ありがとう!! サエちゃん! 助かりました!!」
猫平はカードの拾い主に深々と頭を下げる。礼儀正しいのが猫平唯一の取り柄だ。
しかし拾い主としてはそこまで感謝されるとは思っていなかったのだろう。困ったように辺りをきょろきょろ見回して、俺を見つけて止まる。
「あ、あ、あの……」
俺に頼るような声を出すサエと呼ばれた女性。仕方ないので俺は猫平に言う。
「猫平、宮鳥が困ってる。もうお礼はいいんじゃないか?」
そう言うと、ようやく猫平は深く下げていた頭を上げる。
しかし一方で、サエと呼ばれていた女性の表情は微妙なままだ。どういうことか。
「あの、私の苗字……どうして“宮鳥”って」
しまった。油断した。
コイツの名前は宮鳥紗枝。一周目では俺と同じくアスガルド戦闘班に所属する仲間だった。その時の呼び方の名残でついうっかり苗字で呼んでしまったが、二周目ではこれが初対面。俺は猫平が発した“サエ”という名前以外知る由がないはずなのだ。なのに知らないはずの苗字で俺は彼女を称した。これは完全なミスだ。
俺が“二周目”だということは極力隠しておきたい。ここはとりあえず誤魔化して逃げるか。
「おい猫平! カードあったんならさっさと開けてくれよ。日比谷が待ってる」
「そうでした!! 今開けます!!」
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