第2章:上 一方的再開

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 俺と宮鳥のやりとりの意味を全く理解していなかったと思しき猫平が元気に返事をしてドアに向き直る。不器用そうにコンソールを操作して、なんとかロックを解除した。 「じゃ、俺は行くところがあるからまたな……サエさん」  とりあえずまた宮鳥と呼ぶのはアレなので、下の名前で呼び、別れる。さんづけしたのは……まあなんだ、呼び慣れていないからである。  司令部の扉を潜ると、そこは騒音の宝庫だった。言うなれば繁華街やゲームセンターの無秩序な音の奔流に似ている。そこらじゅうで老若男女様々な人が好き勝手に喋り、いくつものテレビやパソコンが別々の番組やサイトを表示し、音を流している。それでも今は超能力に関する何の事件も起きていないからまだマシである。これが一度事件でも起こったときにはさらに数段騒がしくなる。主に常勤ではなく、呼び出されてやってくる若い異能力者達のせいである。俺を含めて。  まあそんなことは今はどうでもよくて、日比谷を探さなければならない。司令部にいるとすれば一番奥のデスクだろうか。  司令部の様子は、形だけなら会社のオフィスにも似ている。デスクを向き合わせて幾つかの島を作り、それとは別に部屋の奥には司令部長のデスクが置かれている。ちなみに司令部長は日比谷が支部長と兼任している。  だが、よく見ればここが会社のオフィスのように秩序ある空間ではないことを示すものも散見される。  手近なところにあるデスクでいうと、整理整頓されていないのは百歩譲って許すとしても、散らかっている原因がアニメのフィギュアやDVD、原作の漫画ばかりなのはどういうことだ。私物持ち込みすぎである。いや、むしろ逆に私物以外のものがない。仕事の書類とかどこいった。  俺はデスクの持ち主に訊く。書類の行方ではない。それはどうでもいい、勝手に後で困ればいい。  そうではなく、日比谷の居場所についてだ。 「えー、日比谷さんなら見てないけど? そんなことよりこいつを見てくれ。こいつをどう思う?」  そう言う男性局員の手にはプラスチック製の模型が握られていた。通常の三倍速いと評判の、赤いMSだった。 「仕事中にガンプラ作ってんじゃねーよ!!」  ていっ。  俺がその男の手にチョップするとシャアザクの頭部は外れ、どっかに飛んでいった。男は俺を絶望的な顔で見ていたが、たかがメインカメラをやられただけだ。なんとかするだろう。
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