第2章:下 銃弾と

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 昨日。  日比谷に一周目の世界で起こった出来事を伝える際、近いうちに起こるであろう幾つかの事件についても伝えてあった。  そのうちの一つが二見湊による狙撃事件。  被害者は善悪問わず異能力者。強力な遠距離系異能で視認不可能な距離からの襲撃を行っている人間の存在。  すでにこちらの世界でも軽症ではあったが似たような事件が起こっていたらしく、日比谷はこの事件の詳細について詳しく俺に訊いてきた。  特に念を押して訊かれたのが『被害者は一体誰だったのか』ということだ。  二見湊は異能者であれば無差別に攻撃していた。その為、どこまで一周目のターゲットの情報が参考になるかは分からなかったが、俺は思い出せる限り思い出して日比谷に伝えた。その中に猫平かなめの名前もあったのだ。  いや、まあ正確には俺は猫平の名前を思い出せなかったので、 『あー、なんだったけアイツ。名前が思い出せないんだけどあのバカなやつ。凄いバカのえーっと……』  みたいな感じで伝えたのだが、日比谷はそれがかなめのことであるとすぐに気付いたようだった。支部長からもバカ扱いされてるかなめの立場って……。 「とにかく、まだ二見さんは本格的に動き出すつもりはないと思う。一周目では被害が報告され始めたのは五月だった」 「……死者は出たのかな?」 「さいわい、一周目での死者はゼロだった。けどな、こっちでも同じとは限らない」  死者数ゼロといってもそれは結果の話で、多くの異能者が重症を負った。そのなかでもかなめは一際危なく、心臓の横スレスレを異能の銃弾で打ち抜かれていた。たまたまアスガルド波奈市支部には強力な治療能力者がいたお陰で一命を取り留めたが、そうでなかったらあるいは……。 「かなめは俺が守る。何があってもだ」 「カッコイイねえ。昨日は名前を忘れていたとは思えないほどのかっこよさだよ」 「うっ」  日比谷が痛いところをつく。いやあれは普段バカバカって呼び慣れていたからであって、けして俺が薄情者とか記憶力が足りないとかそういうわけではなくて以下略。 「なんにせよ、無視できる話じゃないかな。黒沢クン」  そう言うと、日比谷はここで僅かに声音を変える。それだけでコイツはただの日比谷からアスガルド波奈市支部長日比谷トオルに変わる。 「支部長から局員黒沢悠に任務を下す。“狙撃事件”を未然に防いでくれ、いいね」 「了解」
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