第1章:上 二周目

3/9
前へ
/56ページ
次へ
 俺が住むこの町、波奈市は中心を東西に走る桜川を境に大体二つの地域に分けられている。  川より南側が俺の下宿や通っている(いた?)高校、集合住宅、商店街などがある住居区。都心に程近い場所に位置しているわりにはのどかで落ち着いた雰囲気のあるいい町だ。  そして、川より北側が都心に向かう駅や大型商店、オフィスなどが立ち並ぶ商業区。大きな店で買い物したいときならともかく、普段は高校生の俺にとって縁のない場所――の、ハズだった。  やり直す前の世界での三年間、どれくらいの時間を俺は波奈市の北区で過ごしただろう。正確には北区のオフィス街にある雑居ビルで、だが。  家から自転車で北区に入り、オフィスビルが立ち並ぶ通りを走り抜ける。  記憶を頼りにその場所へと向かうと、すぐに見慣れた古いビルが目に飛び込んできた。  どことなく薄汚れた印象のある三階建ての雑居ビル。一階には喫茶店が入っていて、喫茶店の脇には階段と旧式のエレベーターが設置されているのだが、どちらも使う必要性がほとんどない。何故なら上の二階と三階には何のテナントも入っておらず、上に行く意味がないからだ。  しかし、俺は知っている。旧式エレベーターの本当の姿を。  喫茶店をスルーして、脇のエレベーターに入ったとき、喫茶店の店主からは露骨に不審そうな顔を向けられた。そう、普通なら俺は単なる雑居ビルの空き部屋に赴こうとする変な高校生でしかない。だが、実体は違う。  エレベーターにはボタンが五つ。一階、二階、三階、開く、閉じる。これだけなら普通だが、本当のボタンはこれだけではない。  ボタンの下の鉄板はスライドさせることで開くようになっており、そこに六つ目から九つ目までのボタンが隠されているのだ。  まずはどこへ向かうのがいいだろう。  逡巡した結果、俺は“地下三階”のボタンを押した。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加