第1章:上 二周目

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「つまり、一周目の世界でのボクは失敗したってわけだね」  銃を持った男達を追い返した後、俺と日比谷は支部長室で話を続けていた。  時間遡行などという突拍子のない話も、考えなしに否定することなく受け入れる日比谷に俺は感心する。  日比谷の理解力は抜群で、柔軟な思考力も持っている。一周目の世界ではその頭脳は俺達(アスガルド)の局員にとって頼りになる力だった。二周目の現在も俺の言葉を信頼に足るとした上で、既に前回の反省という建設的な話題に入っている。 「お前が……って一概に言えるわけでもねーけどな。本部長やその他の対応にも問題はあったわけだし」 「とはいえ主戦区はここ、波奈市だったわけで、なら原因はボクだ。まったく、一周目のボクは不甲斐ないボクだぜ」 「そう自分を責めるなよ。お前は変人だったけど、そこそこ優秀だったからな」  俺がフォローすると、日比谷は「そうかい?」と言って笑った。 「そうだ、お菓子食べる? 支部長ともなるといろんなところから貰うんだけど、一人では食べ切れなくてさ」  執務机の引き出しから無数のクッキー缶を取り出してくる日比谷。それお前、他の物入ってないんじゃねーの、とは突っ込まない。実際他には何も入っていないのだが、その突っ込みは一周目で既に済ませてあった。 「クッキーにはコーヒーかな。今用意させよう」  次は内線でどこかに連絡しようとし始めた日比谷を押し留め、俺は本題に戻る。 「んなことはどうだっていいんだよ。ちゃんと俺の話聞いてたのか?」 「聞いていたさ。後三年で世界が滅ぶんだろ。大変じゃないか」 「分かっているなら何を悠長に……」  おいおい落ち着けよ、と今度は日比谷が俺を抑える番だった。 「キミはちょっと焦りすぎだよ。三年というのは長いようで短いようでやっぱり長い。焦って生き急いでもいいことないぜ?」 「だが……!!」  お前はあの地獄を見ていないからそういうことが言えるんだ!!  俺が言いかけたのを遮って、日比谷はさらに続ける。 「今はまだ慌てるときじゃない。……落ち着くんだ。世界はきっと救えるから」  日比谷はそう言って微笑みかける。前の世界でもそうだった。日比谷は俺なんかよりもずっと先を見ていた。今も三年後から戻ってきた俺よりずっと冷静に局面を見ていた。信頼しようと思う。日比谷が三年前から戻ってきた俺を信じてくれたように。
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