記憶 -第一章-

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「うん、よう似合うとるわ」 「ありがとうございます」 美祢さんが用意してくれたのは臙脂(えんじ)色の上衣(うわぎ)と灰色の袴。 数十分かけて着せてもらい、一緒に着付けの仕方も教えてもらった。 着流しならなんとか着れるんだけどね。 袴は初めてだからさっぱり。 鏡を見ながら、用意されていた白い髪紐で髪を一つに結い上げた。 結い上げた髪を見ながら、はたと気づく。 初めてだから苦戦すると思ったのに意外とすんなりできたな? 「そろそろ来はる頃やな」 美祢さんが呟くと、 「こんにちはー」 間延びした声が入り口の方から聞こえてきた。 「ちょうど来はったね」 美祢さんが入り口に繋がる襖を開けると、戸口の近くに一人の男が立っていた。
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