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淡路博隆は決して安いとはいえない介護料を支払っていた。
批判を受ける言われは全くなかった。
本来なら不愉快極まりない相手を論破したかったが、博隆は寛大になろうと努めた。
クリスマスは許しの季節だ。
場末の酒場に入り浸って愚痴っているようなでくの棒から何を言われようが、同じ土俵に乗ってしまうのは得策ではない。
それに大柄なドライバーはどこか常軌を逸した雰囲気を漂わせている。
もしかして酒でも飲んでいるのか――。まさか。
ドライバーの口数は一向に減らなかったが、人気のない場所を走るタクシーの中で変な男と二人っきりになっているという事実に、何やら背筋が寒くなってきた淡路博隆は、ドライバーの相手をせず適当に受け流すことにした。
座っていたタクシーのシートが汚くて、高価なスーツに埃がついてしまった。
やれやれと両手で汚れを払い落としながら、淡路博隆は老人ホームのエントランスに足を踏み入れた。
初めて見たこのドライバーのホスピタリティは最悪だ。
クレームの一つも入れたくなる。
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