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お遊戯
二十三年の生涯を通して赤の他人から首輪を嵌められることになろうとは、坂下百花には思いもよらないことだった。
今まで普通に生活していたことがどれだけありがたかったことか。
そんな年齢に不相応な思いさえ、緊急事態の今となっては込み上げてくる。
首になめこが巻きつけらているような感覚に囚われ、坂下百花は声にならない声をあげた。
意識が戻った時にはもう首輪をはめられ、後ろ手で手錠をされている状態だった。
首輪の先は部屋の中の柱にしっかりと巻きつけられている。
どれだけ叫んでも無駄。
どれだけもがいても無駄。
警察も来なければ親も来ない。
百花は髪を乱して、自分と同じように手錠をつけられ、首輪をはめられて隣で倒れ込んでいる隆幸を見やった。
もう一人、神経質そうな細いあごの、百花の父親ぐらいの男性が倒れこんでいる。
自分を含めて三人だ。
百花は車椅子の波と、調子外れのしわがれた歌い声が、ラジオから流れてくる歌謡曲に被さって響いている空間に、視線を泳がせた。
老人たち。手をたたいたり、頭をふったり、時たま笑い声をあげたりしているのは、確かに老人たちだ。
百花の首からマフラーが床へと吸い込まれるように落ちた。
一時十六分。
壁にかかった簡素な時計を百花は見た。
深夜だ。
今日はクリスマスなのに。
こんな状態に置かれて、一生忘れられないクリスマスになるのはもはや確実だ。
百花はなにがどうなっているのかわからないまま、心の中で自嘲気味に吐き捨てた。
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