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坂下百花は自分のことを極めてノーマルな人間だと思っていた。
大学の授業は出席せずさぼってばかり、レポートの提出は仲のいい友達からノートを借りて、適当にこなしていた。
所属したテニスサークルはテニスをする場というよりも飲み会の場だったし、バイト先はお洒落だからという、それだけの理由で決めたパン屋で、最低限の労力しか使わずに働いていた。
クリスマスは告白された〝中の上ぐらい〟の隆幸と、無難に二人で過ごそうとした。
しかし、意図せずしてこんな状況下に置かれると、自分はなにか悪いことでもしたのかと思ってしまう。
「ねぇ」ときどき横で倒れている二人に声をかけてみたが、首輪と手錠をされている隆幸と、もう一人のスーツを着た男性は、ショックが大きいのか、何を言っても力なく頷くだけだった。
もっと頼りがいのある男と付き合えば良かった。
奇妙なヘルメットを被らされたままの状態で、百花は頼りになるのは自分だけだと思い、なんとか脳を働かせた。
トランス状態にでもあるのか、老人たちはみな興奮している。
足を踏みならしたり、大きな仕草で両手を打ちならしたり、奇声をあげたりしているのだ。
おそらくここはどこかの施設で、そこに拉致されて連れて込まれたのだろう。
繋がれている場所は、老人たちが集まる大部屋らしかったが、施設全体はそれほど大きなものではなさそうだ。
大部屋にはテレビが置かれていたが電源が入っていなかった。
広間に流れているのは聴いたことがない、歌謡曲か民謡のようなメロディの曲で、日本語だったが、まるで異世界に紛れ込んでしまったかのような旋律が耳に入ってくる。
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