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老人たちを世話しているのは真っ赤なセーター姿の女性、力がやたらと強い丸顔の大柄な中年男、それに茶髪のまだ若そうな白服の男性。今のところ、百花が老人たち以外で姿を見たのは、その三人だ。
「こんな世の中」だの「時代が悪い」だの、言動から危なそうな雰囲気を漂わせている中年男とは対照的に、真っ赤な服を着た女は冷静に映った。若い茶髪の男性は言われたままに動いているといった印象だ。
百花はくたくただったが、赤い服の女性へと、声を振り絞った。
「トイレいいですか?」
鼻で笑うように女性が答えた。
「あなた、なんだが挑発的ね」
「あたしが。これだけ大人しくしてて、挑発的なわけがないでしょ」
「嫌いじゃないのよ。そういう返事」
女性はそう言うと顎で百花を示しながら、若い男性を呼んだ。
「いいわ。連れてってあげて」
茶髪が素早く、白服のポケットから鍵を出し、ヘルメットと首輪と手錠を外した。
百花は、身体の自由が効くということはこんなに幸せなのかと、心の底から実感した。
茶髪が百花の腕をしっかりと抱え込んだ。
「娘を思い出すよ。何の連絡も送ってこない娘をよ。世話してやってんのに、トイレさえ一人で行けないなんて何さまのつもりだい。何さまなんだよ」
大柄の中年男の言葉は明らかにおかしかった。
しゃがれた声のトーンが怒気を帯びていて、その異常さに百花は一瞬ぞっとした。
「勝田さん、あんまり怒んないであげて」
「そうですかい? でも俺は許せないんだよ。こんな世の中とこんな若い奴らがさ。俺はどうなってもいいんだよ。俺はどうなってもいいんですよ」
「勝田さん、いい子」
赤い服の女性が空気をなぞるように言葉を吐き出し、そっと身体を寄せると、勝田と呼ばれた中年男はとたんに大人しくなった。
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