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老人たちのなかでも、何枚も服を着がさねして、ミズエが傍に寄り添っている老眼鏡をかけた老女が百花は気になった。
博隆が母さんと呼びかけていたのは、この車いすの老女だろう。
ということは、隆幸の祖母が、この場所にはいることになる。
「百花、お前」
隆幸がトイレの前で突っ立っている百花に気付き、驚いたような目を向けた。
「そうよねえ。あなたもずっと拘束されている状態は辛いでしょ」
ミズエがあやすような声で隆幸のほうに向きなおった。
蛍光灯がらんらんと輝いている広間で、寂れた夏祭りで流れているような音楽が、相変わらず聞こえてくる。
「タカちゃん、しっかり」
「俺も外してくれ。トイレ行きたいんだ」
隆幸の声が上ずっている。
何人かの老人たちは、杖や平手でぺしぺしと、隆幸や博隆を玩具でもさわるようにあやしている。
手錠が食い込むのか、隆幸の顔も苦痛で歪んでいた。
「タカちゃん…。こんな状態にして良心が痛まないの? 外してあげて」
百花は必死でミズエの方を見やった。
「何でもするって、あなた言ったわよね」
「外してあげて。みんな自由にしてあげて」
「あなた分かってる? ここにいる大半の人たちは自由に行動ができないのよ」
氷のように冷たいミズエの言葉が、百花の頭の中で反響した。
「だからって私たちをこんなめにあわせるなんて――」
「そうだ。お前ら、自分たちがどういうことをしているのか分かってるのか。母さん、助けて下さい。母さーん」
「オヤジっ」
博隆と隆幸の泣き叫ぶ声が入り混じる中、氷の剣で大地を切り裂くような響きで、ミズエが声を上げた。
「静かにしろ」
その剣幕に押されて、博隆も隆幸も静かになった。
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