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このままでは出られなくなる――。
ミズエの声のトーンが、冷たく壊れた機械のように響き、怯えた百花は、突然走り始めた。
広間の奥に入った所に、エントランスと、人のいない受付があるのが見えた。
受付は無人だが、エントランスのドアは開くはずだ。
とにかくこんな場所にはいられない。
視線の端に捕えたエントランスへ向かって、百花は走り始め、エントランスの自動ドアへとぶつかった。
だが、開かない――。
ドア自体が動かないのだ。
自動ドアの電気が落ちているのか、中からどのような細工をしたのか、百花には想像もつかなかったが、エントランスの自動ドアは固く閉まったままで何の音もたてない。
だめだ、他の出入口を探さなくては。他の出入り口へ――。
「無駄よ。あなたは出れない」
いきなり背後から近寄ってきた勝田に、百花はがっちりと身体を抑えられた。
「離して、離してよ」
「お嬢さんさあ。なんでもするって言ったじゃねぇか。嘘はいけないなあ、嘘は」
「なんでもする、だから離して」
「いいえ、この子は何でもするわ」
ミズエが確信に満ち溢れた声で言い放った。
「離してあげて」
ミズエの強烈な視線に捉えられて、百花の身体は震え始めていた。
強烈な眼光のミズエは、真っ赤な服よりも赤く燃えているように、百花を見ていた。
「この子、意外と素直な子だから」
「百花、俺も自由にしてくれるように伝えてくれ。オヤジも。悪いことは何もしない。ただ何かを、この人たちは誤解しているんだ」
哀願するような隆幸の様子が、百花の胸を打った。
付き合い始めてから約半年。
隆幸は頼りないところがあったが、誕生日のプレゼントにサプライズで、バイト代から高価なブランドの財布をプレゼントしてくれたり、百花の下らない電話に長時間、不平の一つもこぼさずに付き合ってくれたりと、優しいところがあった。
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