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自分ひとりで逃げる。
頭のなかに浮かんでいた考えがちかちかと点滅した後、消えてゆく。
「いくら何でも、縛ったりする必要なんてない」
「そうよねえ」
気をしっかり保とうと努力をしている百花の言葉に、ミズエはあっさりと応じた。
「淡路さん」
淡路と呼ばれた老女――その淡路という性から、隆幸の祖母だということがはっきりしたが――が車椅子に乗って隆幸に近付いてきた。
「タカユキちゃん」
「ばあちゃん、なんでこんなとこにいんだよ。なんでこんなことしてんだよ」
「ようやく気付いたかい。それでタカユキちゃん、久しぶりやね」
半纏のようなものを着重ねられ、茶色い膝かけをして、眼鏡で車椅子に乗った老女の言葉は、外で聞いた時よりもずっと芯が通った口調だった。
「怠けもんは罰をうけんといかん。普段やるべきことを怠ったものは罰をいけんといかんとよ」
その言葉に応じるかのように「若いのにめそめそしてんじゃねぇよ。あぁ? 若ぇのによ」と勝田が隆幸を足蹴りし始めた。
呼応した何人かの老人が、また杖で隆幸を叩いている。
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