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「やめて。タカちゃんは何もしてないの」
勝田がどんどん隆幸と博隆に蹴りを入れるのを見て、いてもたってもいられずになった百花は、繋がれている隆幸を、身を呈してかばった。
「タカちゃんは何もしてない。何も悪くない。こんな目にあわせて、あんたたち正気なの」
だが勝田は黒くぶ厚いサンダルで、いたぶるように隆幸を蹴り続ける。
隆幸の意識はまだあったが、既に隣の博隆は、勝田の足蹴りで意識を失ったようだ。
「勝田さん」
ミズエの勝ち誇ったような声が響いた。
「そうよね、淡路さんも」
百花は怖くなって叫び始めていた。
「やめて。やめてあげて。こんな真似。おかしい。絶対おかしい」
「見たい。見たいだけなんじゃ。罰を受けた人間たちが、生死のはざまでどう動くかを見たいだけなんじゃ。まだ二十そこらの人間たちが、心の底から恐怖を感じた時にどう動くかを」
「そうともよ。それが生きとし生けるものの本性じゃ」
いつのまにか浪曲のようなメロディが広間に流れていた。
老人たちの声はそのメロディにのって、ぼわぼわと百花の鼓膜のなかで揺らめいた。
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