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もう十年間ここで生活してきたのではございますが、同じことの繰り返しには飽きました。
まるで無間地獄のように、おなじような物事が繰り返し繰り返しと続いていくのでございます。
確かに、書道の時間や歌の時間、それに絵の時間や、時折開かれる催しというのはございました。
しかし何度も申し上げますように、十年間でございます。それは長い絵巻物が終わりがなく、どこまでもどこまでも無限に続いていくような感覚でございます。
だからタカハシくんがいなくなってミズエさんが来たのでございましょう。
キミさんがいなくなって、呑み助が入ってきたのでございましょう。
クリスマスが意義深いものとなるのでございましょう。
わたくしの亡くなった夫はたいそう優しく、包み込むような人でした。
夫がとある政治家の書生をしていた時から、わたくしたちは互いに惹かれあっておりましたから分かるのでございます。
亡くなった夫の贈り物は絹のハンケチでございました。
わたくしの名前と夫の名前が揃って刺繍されておりました。
そんなお茶目な夫でございまして、クリスマスを家族で祝い、お盆にはお墓参りにいくような、宗派なんて関係ない、そんな人でございました。とどのつまり非常に人間的だったのでございます。
タカユキちゃんと彼女も、また非常に人間的でございました。
こんなことを申し上げますとお笑いになるかも知れません。
ですが常々「人間一皮向ければ、金と女」などどのたまう輩もおりますので、クリスマスはそれを絵に描いたようなものなのでございましょう。
生誕祭。
生命の誕生とは、そんな簡単なもの、否、簡単なものじゃないのかも知れません。
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