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なにしろタカユキちゃんもお若いお嬢さんも、本能の赴くままに動いておられました。
ただ、本能の赴くがまま。
タカユキちゃんは私が覚えている限りではまだ十歳でございましたから、それはそれは大きくなったこととわたくしは感嘆いたしました。
一緒にいるお嬢さんも、なにか一心不乱になっておりまして。おかしいでございましょう。
おかしいでございましょう。
ああ、物事が狂っているのか、可笑しいのか、わたくしには区別がつかなくなって参りました。
と、申しますか、そんな小さなことを意に介しても仕方ありません。
ただわたくしは、亡くなった夫のことをぼんやりと考えておりました。
夫はいつもわたくしに優しく、わたくしのことを考えておりました。
二人で東京駅に出かけた折、通行人にあらぬ言いがかりをつけられた時も、夫は常にわたくしをかばってくれ、その時は大きな喧嘩まで相手とやらかしたのでございます。
全てはわたくしのため、わたくしにつけられた言いがかりを晴らそうと、公衆の面前で怒鳴り合いまでして、そんな男気のある夫でございました。
そうそう、クリスマスには必ずケーキを買ってきてくれたものでございます。
それもわたくしと夫の名前がチョコレートで飾られているもの。
そんなお茶目なところもある夫でございまして、なんと申しますか懐かしいものでございます。
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