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夫はもういません。
ですがクリスマスの夜、イネさんやナシダさんはおります。若い二人も恥じらうことなどないでしょうに。
おや、またミズエさんの満足げなこと。
呑み助の方はとたんに静かになってしまいまして、最近来た若い茶色い髪の世話人の方はどこぞか広間の外へと出て行ってしまいました。
そのなかで、タカユキちゃんとお嬢ちゃんは、まるでわたくしたちなど存在していないかのように、二人だけの世界で動き始めたのでございます。
また、ナシダの爺さんがさかんに拍手をしております。
「アンタ、お別れだと思っとったのに、あの女と一緒にどこに行って戻ってきたか」
イネさんが言いました。
「ここから出て浮世を見てきたんじゃ」
「そうかい。アンタ、またここに戻ったんじゃなぁ。浮世に未練はないが、わしもここにいて良かったわ。たまげたが、ええもん見れた」
「ええもんか」
笑ったわたくしに嬉々としてミズエさんが言うのでございます。
「よかった、淡路さん。でもね」
ミズエさんはそこで一段と語気を強めました。
「あなたの息子さんだけ、役に立ってないわ」
「できの悪い息子じゃ。眠ってしまってなにもできん」
「そうでしょう、淡路さん」
ミズエさんは少し怒っているようでした。
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