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「助けて、母さんなんでしょう。助けて」
「博隆、わしもこんなことをしたくはないんじゃ。だがのう博隆、人間たるもの、今までの業の報いを受けねばなるまい。自分さえよければそれでええ、そう思って、のうのうと生きてた罰をのう」
「母さん、待って下さい。だいだい業ってなんだ。報いって」
白い服を着た茶髪が、奥から水の入ったバケツを手にして現れると、博隆に水をぶちまげた。
「黙れ、オヤジ。うぜぇんだよっ」
もはや博隆には肉親とは思えない息子が、胸倉を掴んで顔にパンチを浴びせてきた。
「ふっふっふっ」
人里離れた施設の広間に女の笑い声が響いた。
「ふっふっふっふっ」
性別を超越したような笑い声は、次第に大きくなる。
その声が真っ赤なセーターの女性の声だということを、再び遠のいていく意識のなかで、博隆はかすかに理解した。
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