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ハゲタカにもなれない――。
淡路隆幸は床の上に失神した父親を見降ろしながら、そんなことを思っていた。
淡路家はもともと四人家族だ。隆幸、博隆と、母の敏子、それに祖母のカヨである。
だがカヨが施設で暮らすようになってから約十年、その十年の間に隆幸は一度もカヨの施設を訪れたことがなかった。
期せずしてクリスマスの今日、隆幸は十年振りとなる祖母の記憶を、頭の中から取りだすこととなった。
十年間、すっかり思い返すことのなかった自分の祖母が、この閉ざされた施設の中にいて、何事も起きていないかのように、冷静に車椅子に腰をかけている。
勝田と呼ばれている男や、看護師のような格好の茶髪の若い男に暴行されて、隆幸はここでの力関係を理解した。
すると湧き上がったのは、だらしのない父親への怒りだった。
なんの役にも立たない。
なんとか手錠と首輪を外されたものの、監禁されている隆幸にとって、ただ泣き叫ぶだけの博隆は足手まといだった。
思い返せば祖母と別れて生活するようになったこの十年、博隆との距離も相当開いていたことに気付く。
隆幸が高校の時のクラス替えで苛められ、いじられキャラでなんとか乗り切っていた時、隆幸の学校での異変に、父が気付くことは決してなかった。
この世は弱肉強食。
それを嫌というほど隆幸は高校生のとき思い知らされた。
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