裏切り

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「タカちゃん大丈夫」 普段は見せない隆幸の行動を目にしたためたか、近付いてきた百花の声のトーンがおかしい。 「気にすることないって。こいつ何の役にもたたねぇんだし、ばあちゃんのこと粗末に扱ってきたから。なぁばあちゃん」 「おや、隆幸、物わかりが良くなったのか、悪くなったのか」 広間に老人たちの奇妙な笑い声が響く。 隆幸は自分の声が震えないようにして話し始めた。 「百花も俺も、あなたたちには何の敵対心も抱いてません。なにかをされたとか、危害を加えられたとかそんな風には思ってません。みんないい人たちだし、優しいし、むしろこんな風にされて感謝したい位です」 「おや、この子はまた何を言い出すだか」「タカちゃん、大丈夫なの」 隆幸は、先ほど、強引に脱がされてしまった、ジーンズに、パーカー、そしてジャケットを着なおして、落ち着きを取り戻そうとした。 老人たちとウィスキーの瓶を握った男、白服、それに女、そして百花が見つめている。 「さっきはへんな事をさせちゃってゴメンな。百花、俺は大丈夫だ。でもみなさんには良かったかも知れない。これが俺たちなんだ。俺たちだって人間だから、みなさんと一緒です。そうなんですよ、あなたとも一緒なんです」
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