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隆幸は勝田の方を見て、痛々しく無理に表情を崩そうとした。
「だから俺たちに危害は加えないで欲しい。みなさんはなんか誤解してるんだ。俺たちはみなさんの味方ですよ。みなさんの力になれる存在なんだ」
そう話しながらも隆幸は、自分を捉える強い視線を感じていた。
「実は、俺なにもできない。何もえらくない。でもパパは、えっと、父に対してはムカついてたんです。ずっと何にも家族にしないパパだな、死んだって誰も悲しまねえよとか、いえ、そんなことないんです。いいパパ、いえ父だなって。ぼくちゃんはずっとパパよりママが好きで、いや、その、私は」
その誰よりも鋭い眼光は、赤い服を着た女から発せられるものだった。
黒く長い髪を触る度に、女の眼光には鋭さが増し、白い大きな眼球に赤い線が細く浮き出していた。まるでその目から光線が発せられているようで、隆幸はたじろぎ始めていた。
一体、この女は何だ。一体自分は何を話しているのか。
「だから私がこの子と付き合ったのも、ヤリたいとか、いや、ちゃんとSEXをしないといけないですねと、私は真剣に考えたのです。さっき皆様にもお見せしたとおり、私たちは真剣に行為に及びました。そして私は真剣にパパに、いえ、あの、父にムカついたのでありまちゅ。いえ、あります。何もできないパパ、いやいや父にですね、ぼくちゃんは、ぼ、ぼ、ぼくはムカついて正義の鉄槌を下したのでありまちゅ、あります、ありまちゅ」
眼光を異様に鋭くした赤い服の女が、やにわに隆幸に近付いてくる。
女は口元に薄らと笑みを湛えていた。
「ふっ、まだまだ子供なのね。いいわ、掃除するのよ。ここ、汚れてるでしょう」
女に頬をなぞられ、モップとバケツを持たされた隆幸は、必死で床を磨き始めた。
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