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「タカちゃん、何言ってるの。さっきも、パパとかぼくちゃんとかママとかSEXがどうとか―」
「うるせぇ」
隆幸は思わず語気を荒げると、百花の手をはたき落した。
「タカちゃん。心配だから言ってるのに。なんで、どうしちゃったわけ」
「うひーっ、喧嘩が見れるぜ。さっきまで仲よく交わってたお二人さんの、喧嘩がよぉ」
勝田がヒステリックなトーンで大声をあげる。
その勢いに百花も隆幸もたじろいだが、信じられないことにこの場にいる老人たちは一切動じた気配がない。
「俺だって大人の男なんだよ。分かってくれよ百花。なんで分かってくれないんだよ」
「なにを分かれって言うの」
「なんで分かってくれないんだよーっ。分かってくれよーっ」
「タカちゃん泣くことないのに。落ち着いてよ、とにかく落ち着こうよ」
隆幸は半泣き状態でモップをこすり続けていた。
「言ったでしょ。この子はまだ子供なのよ」
女がそう言うと、どこから持ってきたのか、ステッキのような長い棒で、隆幸の頭を軽く突いた。
「助けて下さい、助けて。出して、ぼくちゃん、いや、わたしと百花をここから出して、出して下さい。助けて下さい」
誰とも目も合わせずに一人でそう言い続けながら、隆幸は背後から猛獣にでも狙われている体で、ステッキで小突かれ、床を磨き上げている。
百花が何を言っても「助けて」としか言わなくなった隆幸は、恐怖に取りつかれているかのようだった。
その様子を、百花と博隆以外の全員が満足気に見守っていた。
「やればできるとよ」
しゃがれた声が、嫌に満足気だった。
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