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逆転
それは病院の個室のような部屋だった。
置かれているのはベッドと、引き出しがついて転がして運べるようになっている、簡素な机だけ。
ジーンズのポケットに手を入れて、坂下百花は携帯電話がないことに気付いた。
ヴィトンのバッグはとっくに取りあげられてしまい、持ち物は全て没収されている。
当然のように、外部との連絡手段はない。
ようやく手錠と首輪の責め苦から逃れたが、この施設内にいる限り、今の状態がどれだけ続いていくか分からず、再び大柄の男に押さえつけられて老人たちのおもちゃにされてしまうかも知れない。
ベッドに横になりながら、坂下百花はある事実に気付いていた。
キーマンは赤い服の女だ。
これから先、無事に家に帰ることができるか全く分からず、さらに虐待される恐れさえあった。
恋人の隆幸の見たこともないような有様や、その父親の惨めな様子、本当に実体がある人間たちなのかと疑ってしまうような老人たちと、見るもの全てが、どこまでが現実なのか分からないような事態だった。
おまけに百花自身、自分で振り返っても、訳のわからない行動に走ってしまったのだった。
女に操られていくように。
黒く長い髪、ジーンズに真っ赤なセーター、20歳にも50歳にも見える外見、そして時折見せる常人離れした異様な視線。
とにかく、あの女には逆らわない方がいい。
隆幸がまるで幼児のようになってしまったのも女から放たれる異様な空気にのまれたからだろう。
ウィスキーの瓶を手にした大男もやっかいだったが、白服と同様、赤い服の女には頭が上がらないようだった。
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