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大変なクリスマスになってしまったと、百花はため息を吐き出した。
数時間前までは、人が溢れる渋谷でクリスマスを楽しもうとしていたのに、今ではそれが何日も前のことのように感じられる。
突然ドアが開くと、コップを持った一人の老女がよたよたと部屋の中に入ってきた。
「喉、かわいたじゃろ。のみなされ」
「ありがとうございます」
まさか毒でも入っていないだろうと思いながら、やけになった百花はコップの中に入っていた冷たいお茶を飲み干した。
全く飲むことも食べることもしていなかったので、身体が水分を要求していた。
「あの、もう一杯ありますか」
「いいじゃろう」
よたよたと老女は出ていくと、またコップと煎餅を手にして戻ってきた。
「本当にありがとうございます。あの」
「なんじゃ」
「ここでみなさん生活しているんですよね」
「そうじゃよ。みんなここで生活しているんじゃ」
「あの赤い服の女の人は」
「ああ、ミズエさんのことじゃな。ミズエさんはしばらく前にここに来た。勝田さんと、何人かの若い人たちと一緒にな」
「そうなんですか」
その老女は血色が良く、言葉も明瞭だった。百花はまだ何か聞きだせるかも知れないと思い始めた。
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