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「お嬢さん、まだアンタには分かるまい。この世界の真実というものがな」
そういうとコップを手にした老女は良く通る声で話し始めた。
「ほんの数週間前まで、ワシらは籠の中に閉じ込められた鳥と同然の生活をしておった。もちろん何人もの人がワシらに関わり親切にしてくれていた。だがそれだけでは全く物足りなかったんじゃ。ワシらに関わっている人たちは辞めていく者が多かった。若くても歳をとっておってもな。そして数週間前に、その窓が開いたんじゃ」
老女はコップを持った手で、踊り場の窓を指し示した。
「窓から、ミズエさんたちは現れた。と、同時に今まで働いていたものたち全てがこの施設から忽然といなくなった。ミズエさん達と入れ替わりで消えてしまったんじゃよ。それにな」
老女は思わせぶりな口調になって、顔を百花に近付けた。
「何人かは暫く繋がれておったけどな。ちょうど少し前のアンタのように」
そうしてケタケタとまた笑った。
「いなくなったってどこへ」
「それは知らん。だがそんなことはどうでもええんじゃ。ワシらは楽しませてもらっておる。今までとは違う楽しみをミズエさんが与えてくれたんじゃ。生きとし生けるものの生身の喜びよ」
「待って。そうしたら私たちはどうなるの。こんなことして、自分たちが正気だと思ってるんですか」
「お嬢さん、まだ分からんかい」
それは、まるで聞き分けのない子供を激しく叱りつけるような険しい口調だった。
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