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もしも凪子さんが違う選択を、課長のそばにいることを選んだなら、苦しい中にもこんな風に安心出来る時間を持てたのかもしれないと思う。
寂しくなかったわけはないのに、自分から離れていった凪子さんの、そんな強さが哀しくて。
目の奥がジンと痛くなってきて、思わず広い胸に顔を埋めれば、私を抱き込む腕の力が強くなる。
「…どうしたんですか?」
何も答えずにそっと背中に手を回すと、「寒いですか」と肩をさすってくれる大きな手。
「いいえ、温かいです、とっても…」
春とはいえまだ早朝は肌寒い日もあるけれど、想さんといる時はそれも気にならない。
しばらくはほっと力を抜き温もりに身を任せていると、私の髪を撫でていた手がスルリと背中をなぞり腰の括れで止まる。
その指先の感触に穏やかだった鼓動がドキリと大きく動き出した。
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