8 哀しい接点

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「綺麗な人だって言ってました。名前も素敵だなって思って聞いてたんだけど…えっと、更科…更科、…なぎ」 ――ドクン 体の中で音がして、次の瞬間、私は初めて血の気が引くという言葉を体感したと思う。 「更科、凪子…さん?」 震える声を出した私に三人の視線が集まった。 「あ、そうです。凪子さんです。」 「鈴先輩、知ってる人ですか?」 「…田上っ、大丈夫か?お前、顔真っ青だぞっ。」 すぐ近くにいる三人の声が、何かを隔てた向こう側から聞こえるような気がする。 …嘘でしょ? だって、凪子さんは。 『仕事辞めて結婚するの。』 明るい声だった。 『大丈夫よ、もう鈴ちゃんは一人前の販売員さんなんだから。』 …私にも嘘を? 凪子さん。 …課長。 「田上っ。」 「鈴先輩、大丈夫ですか?」 ハッと気が付くと、菜々子ちゃんが私の横に来て心配そうに顔を覗き込んでいた。 「…大丈夫。ちょっと、酔っちゃったのかも。少し疲れ気味だったから…。」 「送ってく。」 横から北島の声がした。 ・
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