8 哀しい接点

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北島はすぐに寝ろと言ったけど、忘れていた寒さを急に感じてこのままでは眠れそうもない。 「…お風呂」 靴を脱いで、バッグを置き、スイッチを押すと、いつもの音声がお湯張り開始を告げる。 気を紛らわせようと、キッチンを片付けたりしているうちに、また音声が流れて、お風呂が沸きました、と教えてくれた。 お風呂から出た時には部屋も温まっていて、私はソファに座ってため息をついた。 お風呂に入りながらもずっと考えていて、でも考えてもどうしようもない事だとも分かっていて。 私はメガネをかけて、ローテーブルの上のリモコンに手を伸ばしテレビを付けた。 画面に映ったのは、クリスマスイルミネーション特集の文字と、輝く光を纏ったツリー。 『課長だって、本当は大切な人と一緒に見たいですよね。』 『…ああ、出来ればそうしたい。』 蘇る、クリスマスツリーを前にした会話。 テレビ画面の中のキラキラが滲んで広がる。 …ごめんなさい、課長。あんな事言って。 ごめんなさい、凪子さん。何も知らなくて。 俯いて零した涙がレンズに溜まるから、メガネを外して顔を上げると、テレビ画面がもっとぼんやりと滲んで見えた。 ・
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