9 憧れ

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「…はぁ」 入社してすぐに行われた三泊四日の新入社員研修の合宿、最後の夜の消灯前、宿舎の庭にあるベンチに座って私はため息を吐いていた。 高校を卒業したばかりの、どちらかというと世間知らずの私は、なかなか周りの状況に慣れず、いっぱいいっぱいでこの合宿を過ごした。 新入社員は何班かに分けられ、もう一人の同じ高校からの子とも離れてしまって心細い。 自分としては早く覚えよう、しっかりやろう、と頑張っているつもりだったけれど、同じ班になったやはり高卒の男子の遠慮ない言葉に萎縮してしまう。 『おい、メガネ~!お前カタイし、暗い。この仕事向いてないんじゃねえの?』 それは接客の基本の挨拶の練習の時間。 向かい合って「いらっしゃいませ」から「ありがとうございました。」まで、笑顔で大きな声で。 萎縮してぎこちなくなり、もっと笑顔が出来なくなってきて。 「はぁ…」 「どうしたの?田上さん。」 静かに掛けられた声の方に顔を上げると、優しい笑顔のその人がいた。 「更科さん。」 「疲れた?」 そう言いながら隣に座ると私の顔を覗き込んだ。 ・
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