9 憧れ

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その後今の職場に配属され1ヶ月程経った頃、迷惑にならないかと連絡を躊躇していた私に、凪子さんの方から電話をしてきてくれた。 それから3年半程の間、交流は時折のメールや電話が殆どで、直接会った回数は両手の指だけで足りる位だったけれど、凪子さんはいつも変わらず、優しくて大人で、特別だった。 そういえば最初の頃、どうしても接客をしている凪子さんが見たくて、コッソリ本店に訪ねて行った事もあった。 結局見つかって笑われて、お昼をご馳走になったんだっけ…。 「最後に凪子は田上さんに何て…?」 最後、という言葉にギュッと胸が締め付けられて苦しくなる。 「最後に…凪子さんと話したのは電話で、結婚するから会社を辞めるって。相手の仕事の関係で海外に行くから暫く会えないけれど、頑張って、って言ってくれました。」 もう一度会いたかったけれど、急に決まって時間がなくてごめんね…凪子さんはいつもと同じ、落ち着いた優しい声で。 「…そう。」 風間さんは頷くと、少し考えてから話し出した。 「貝塚君の事は聞いてなかったのね?」 「はい、でも一度、旅行のお土産を頂いた時、お付き合いしてる人と行ったって嬉しそうに話してくれた事があります。」 頬を染めた凪子さんを可愛いと思った、あの時。 凪子さんの心の中にいたのは貝塚課長…。 ・
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