9 憧れ

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「田上さん…、」 「はい…?」 風間さんは一瞬ハッとした顔をしたが、またすぐに表情を落ち着いたものへ戻した。 「田上さんは貝塚君の事、気になってるように思えたんだけど…」 「…素敵な人だと思います。でも、上司ですし、何より、」 「…凪子が好きだった人だから?」 「凪子さんを、好きな人だからです。」 課長はまだ凪子さんを忘れていないと思う。 そもそも忘れる事なんて出来ないだろうと思う…。 「私なんかが言うのは失礼だと思いますけど、私も課長に幸せになって欲しいです。」 エレベーターは一階に着き、駅ビルの外に出た私たちは何となく空を見上げた。 透明度の高い、冬の冴えた青空。 「…風間さん、聞いていいですか?」 私の問いに答えて、風間さんは、凪子さんは隣の県の実家の近くに眠っている事と、1月の末の命日を教えてくれた。 いつか会いにいけたらいいと思う。 また涙が出そうになるのをグッと堪えて、風間さんの方に体を向ける。 「今日は本当にありがとうございました。また明日から仕事頑張りますので宜しくお願いします。」 風間さんは まだ何か言いたげだったけれど、「こちらこそ宜しくね。」と笑ってくれて、本店へと戻って行った。 ・
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