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「…そう、か?」
すっきりとした額と眉にきゅっと力が入って、少し細められた目がじっと見つめてくる。
「…はい。なので、帰ります。お先に失礼しますね。」
そう言って事務所を出る私の背中に声が掛けられた。
「ちゃんと食べて、早く寝るんだぞ。」
思わず立ち止まり、「子供じゃないんですから。」と振り返ると、「ははっ」と笑う課長の顔が飛び込んできて。
「お疲れ様。気をつけてな。」
「…はい。お疲れ様でした。」
振り向いた事を後悔しながら、私は急いでその場を離れた。
一瞬掠めた、一番持ちたくないと思っていた感情に懸命に蓋をして。
社員棟のロッカールームで私服に着替える。
いつものジーンズにフリンジの付いた短めのブーツ。
コートの上からグルッと首に巻くようにストールを掛けて外に出た。
すでに雪を被った遠くの山から吹き下ろしてくる風は本当に冷たくて思わず肩を竦める。
ヒリヒリしてきた頬から鼻の上までストールを上げてみたけれど、息が上に向いてメガネが曇るので諦めた。
大通りに出ると、急に人通りが多くなり、白を基調にしたイルミネーションが目に眩しい。
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