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想さんの電話から3日経った、日曜日の閉店後すぐ。
さすがに12月も中旬となると客数もそこそこあり、皆で乱れた棚やラックの服の整理や品出しをしていると、貝塚課長が目の前の通路を大股で紳士服の方へ歩いていった。
私が一瞬だけ見た横顔は少し不機嫌そうにも見えた。
ツツツっと菜々子ちゃんが私に近付いてきて、小声で言う。
「…どうにかして下さいよ、鈴先輩。」
「え、何を?」
「何って。…課長ですよ、課長。あのピリピリ感、怖いですから。」
確かにここ数日、課長の機嫌が悪くなっている様な気がしてはいたけれど。
「あぁ、やっぱりそうなの?仕事上は問題ないと思うけど。何かあったのかな?」
私もやっと最近は露骨に視線を外したりせずに、課長と接する事が出来るようになってきていた。
上司と部下として接する、そう決めて、仕事に影響が出ないように冷静に 。
仕事以外ではなるべく距離をとるようにして。
そうしていれば、端正な横顔や笑顔に重なる面影に、胸を締め付けられる事もなくいられた。
ただ、自分が楽でいたくて。
それだけだった。
「でも、菜々子ちゃん、…私にはどうにも出来ないと思うよ?」
そう言う私を菜々子ちゃんはじっと見つめて、ため息混じりに呟いた。
「…そんな事ないと思いますけど。」
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