2 その日

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その日は催事場のバーゲンが初日ということもあり、平日にも関わらずお客様も多くて、午前中は特に忙しくあっという間に時間が過ぎた。 私も催事場と売場を行ったり来たり。 正午を過ぎてやっと落ち着いてきた催事場を後輩に任せ、事務所のパソコンで、秋物の売上動向のチェックをしながら少し疲れた足を休める。 「…ふぅ。」 息を吐いて力を抜き椅子の背もたれに体を預けた時、事務所の電話が鳴った。 慌てて体勢を戻し受話器を取る。 「はい、三階事務所です。…ああ、うん、すぐ行きますね。」 催事場からで、空いたスペースに出す品物がどこにあるか分からないとの事。 そういえば彼女は昨日休みだったから…と、急いでパソコンを消して事務所を出た。 社員用エレベーターを待つが、荷物を積んでいるのか一階からなかなか上がって来ない。 「階段で行くか…」 小走りに階段の方へ進み、その勢いのまま非常扉を開けた。 「…ぅわっ?」 厚くて重い筈の扉がスッと開いて、勢い余った私はバランスを崩して前のめりになり、足がよろけた。 …転んじゃうっ! と瞬間思ったけれどどうにもならず思わず目を閉じた私。 ぽすっ…? 顔に触れる布地の感触。 「っおっと…」 腰の辺りをグイッと引き寄せられた時、ガチャン!と背中で扉が閉まる硬質な音がした。 ・
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