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「…で?」
「はい…?」
照明が落とされた暗いフロアの中で明るく浮かんでいるのはこのレジカウンターの一角だけ。
来月からの販売計画書を受け取り、幾つか確認を済ませた課長がカウンターに寄りかかりながら発したその言葉は、早々にその場を後にしようとしていた私の足を止めた。
「田上が俺を避けている理由は何だ?」
思わず課長の顔を見てしまった私は馬鹿だ。
じっと見つめてくるその目に胸の奥を覗かれそうな気がして狼狽える。
「そんなこと…」
「無いとは言わせない。」
「……」
「俺が何か田上に…」
一瞬途切れた言葉に課長の躊躇を感じた。
「嫌われる様な事、したか?」
…どうしてそんな困ったような顔で、そんな事を聞いてくるのか、
私は何て答えたらいいのか。
「…何も。避けるとか、嫌いだとか、ないので。課長の気のせいです、よ?」
ちょっと笑って言ってみたけれど、課長の顔は不機嫌さを増しただけで。
「違うだろ。…少し前まで、もっと近くにいただろう?」
……何を言ってるの?
その苦しそうで苛ついた声の意味がわからない。
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