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「田上。」
「はい。」
レジを出て、暗い通路を先に歩くスーツの背中からの声を聞きながらその後ろを歩く。
「こっちに来て、経験のない子供服に思ったより早く慣れる事が出来たのは、高橋さんもだけど、特に田上が良くフォローしてくれたからだと思ってるんだ。」
少し低めの声が穏やかに響く。
「だから、甘えてたのかもしれないな。田上がいつも居てくれると思って、少し態度が違って見えただけで焦ったというか…。まあ、情けない上司だよな。」
「そんなことないですよ。」
背中に答える。
「…もう少し、」
課長が立ち止まり振り向いたから、私も立ち止まる。
「出来れば、もう少し、こんな情けない上司の面倒、見てくれないかな?」
それは少しおどけた様な声で。
非常灯だけの明るさでは課長の表情はわからない。
「…もう。本当に仕方ない上司ですね。少しだけ、ですよ?」
泣き笑いの私の顔も見えない暗さに感謝して。
「はは。…ありがとう、田上。」
…もう声が出せない私。
後は二人黙ったまま歩き、レジカウンターの照明スイッチをオフにして、休憩室に戻った。
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