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私服に着替えて社員棟から出ると、今夜も冷たい乾いた風が容赦なく頬に当たる。
あの後休憩室に戻ると、菜々子ちゃんは電車の時間があるからと先に帰っていた。
「課長、俺も提出していいですか?」
一緒に事務所に入って行った北島と課長に「お先に」と挨拶をして事務所から出て…。
ため息さえ吐けずにここまで来て、自分の腕で体を抱き締めるようにして肩を竦めて歩き始める。
デパートの横の道で大通りが見えて来た時、コートのポケットの中で携帯が震えた。
…想さん、だ。
大通りへ出る角を曲がったところで、電話に出る。
「もしもし…」
「鈴さん?」
「想さ‥ん。」
何故だろう、想さんの声を聞いた途端、目と鼻の奥がジワッと痛くなって、声が詰まって、思わず立ち止まる。
「…鈴さん、まだお仕事ですか?」
「い、いえ。…帰り、で、」
「…どこですか?」
「…今…大通りに」
「……」
「…想さん?」
返事がない。
…切れた?
私も携帯を切ってポケットにしまう。
ポロッと涙が零れて、慌ててメガネを外し指で拭った。
…馬鹿みたい、幾つだ?私。
「鈴さん!」
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