10 温かい場所

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私服に着替えて社員棟から出ると、今夜も冷たい乾いた風が容赦なく頬に当たる。 あの後休憩室に戻ると、菜々子ちゃんは電車の時間があるからと先に帰っていた。 「課長、俺も提出していいですか?」 一緒に事務所に入って行った北島と課長に「お先に」と挨拶をして事務所から出て…。 ため息さえ吐けずにここまで来て、自分の腕で体を抱き締めるようにして肩を竦めて歩き始める。 デパートの横の道で大通りが見えて来た時、コートのポケットの中で携帯が震えた。 …想さん、だ。 大通りへ出る角を曲がったところで、電話に出る。 「もしもし…」 「鈴さん?」 「想さ‥ん。」 何故だろう、想さんの声を聞いた途端、目と鼻の奥がジワッと痛くなって、声が詰まって、思わず立ち止まる。 「…鈴さん、まだお仕事ですか?」 「い、いえ。…帰り、で、」 「…どこですか?」 「…今…大通りに」 「……」 「…想さん?」 返事がない。 …切れた? 私も携帯を切ってポケットにしまう。 ポロッと涙が零れて、慌ててメガネを外し指で拭った。 …馬鹿みたい、幾つだ?私。 「鈴さん!」 ・
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