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ほんの数メートル先の想さんの表情は、裸眼とまた溢れてきた涙のせいで分からなかった。
慌てて涙を拭っていると、
「まったく、鈴さんは…」
そう言いながら近付いてきた想さんは着ていたコートを脱いで
「…?」
バサッと頭の上からすっぽりと私を包んで
「本当に、僕を困らせるのが上手ですね。」
ふわりと抱き寄せた。
眩しかったイルミネーションの光が消えて、風が止んで、街のざわめきが小さくなる。
私と想さんの間には、メガネを持った左手と涙を拭っていた右手に必要なスペースが残っていて、
優しくて、温かかった。
また溢れてそうになった涙をなんとかこらえて、息を整えた時、頬から離した手が想さんの胸のあたりに触れた。
手触りの良い薄手のセーター越しに伝わる想さんの鼓動は少し速くて…
薄手のセーター…?
「…想さんっ」
「はい、何ですか?」
身動ぎをした私の慌てた声にも丁寧に答えるこの人は…どうしてこんなに。
背中に廻していた手を離し、私を包んでいるコートの頭の辺りを少しずらして覗き込んだ想さんを見上げると、やっぱり笑顔で。
胸がドクンと音をたてた。
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