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その音の直前に二の腕の辺りもしっかりと掴まれて体を支えられた。
転ばなくて良かった…とまずホッとして、私が扉を押すのとこの人が引くのとがぴったり合ってしまったんだな?と理解する。
…って。誰? いや、まず支えて貰ったお礼を言って…
…あ。顔を少し離して見ると、見覚えのある生地の色とネクタイ。
「…大丈夫?」
…やっぱり。
「はい。大丈夫です。」
足から体に力を入れて自分で立とうとしたけれど、回された腕にしっかりホールドされて動けない。
腕を掴んでいた手がするっと肩を滑って背中に触れた。
…え?何?ちょっと…
「………」
「あ、あの、課長…」
置き所がなく課長の体の脇に浮かせていた手でトントンと背中をつつくように叩いてみる。
「す、すみません。ちょっと急いでるのですが…」
…何言ってんだろ、私。
「…あっ。ごめんっ。」
ハッとした声がして弾かれたように回された腕は離れたが、すぐにその手はそっと私の腕を掴んで真っ直ぐに立つのを手伝ってくれた。
一二歩下がり、首から下の服装でやっぱり課長だと再確認した私は「すみませんでした」と頭を下げて逃げるように階段を上り始めた。
…動揺と疑問で、顔が上げられない。
だから課長の表情もわからなかった。
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