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「あの日、鈴さんはどこか悲しそうな顔で、僕のこの目や髪が羨ましいと言ってくれました。」
…あの日、想さんの歓迎会。
上手くいかなかった恋愛の残像に縛られて、また自分に対する自信も無くなっていた時だった。
「そしてそんな鈴さんは僕がずっと欲しかった、真っ直ぐな黒髪と少し冷たく見える黒い瞳を持っています。」
そう言いながら想さんは長い指で私の髪をゆっくりと梳いた。
「お互い無い物ねだりなら、せめて側にいませんか?…側にいて、自分のものの様に大切にしていきませんか?」
想さんは掴んでいた私の手をゆっくりと引き寄せて、自分の髪に触らせた。
…あ
初めて触れるその髪は思っていた以上に柔らかくて、指先が震えた。
「こんな風に、触れながら。」
私の髪から離れた想さんの手が、耳の後ろから項の辺りを覆うように掴んで私の頭を自分の胸にそっと引き寄せた。
頭の天辺に感じたのは、多分、想さんの唇。
思いもよらない出来事に、胸のドキドキが治まらなくて、私はギュッと目を閉じた。
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