1645人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの…、クリスマスの少し前にルックメガネのイケメンさんが、泣いている女性をコートで包んで抱きかかえて連れ去った、って噂です。…知りませんでしたか?」
…メグちゃんの説明は簡潔で、そして事実に添っていた。
北島の眉根に力が入ったのが分かる。
「その女の人って、田上さん、なんですか?」
熱くなる頬に課長の視線を感じる。
…私だけど、でも、
どうしよう、と、そっと想さんを見る。
想さんはちょっと考えてメグちゃんに微笑んだ。
「それが誰なのかを言ってしまったら、コートで隠した甲斐がないでしょう?」
「あっ、…そうですよね。あの、ごめんなさい。」
もうそれが私だって事はみんな分かったと思うけど、メグちゃんが顔を赤らめてそう言ったからその話は終わると思ったのに。
「どうして隠したんですか?」
「他の人に、見せたくなかったので…」
…何だか、辛くなってきた。
もういいでしょ、北島。
そう言おうと顔を上げた時。
「北島、そこまでにしておけ。藤野さんも。」
それまで黙っていた課長の穏やかな声がした。
「ふたりで田上を困らせてどうする。」
想さんと北島が私を見て、あっ、という顔をした。
「織田も、噂話もいいが、もう少し考えないとな。」
「…はい。」
恥ずかしそうに返事をしたメグちゃんは、そんな課長をじっと見つめてた。
・
最初のコメントを投稿しよう!