1645人が本棚に入れています
本棚に追加
北島と想さんに見送られてタクシーは走り出した。
一度後ろを振り向くと、二人は何か話しているように見え、そして近付く女の子の姿…。
「……」
顔を前に向けて座席シートに体を預ける。
「飲みにいきませんか?」なんて誘われてるんだろうか?
考えても仕方ないのだけれどやっぱりため息が出そうになるのを、隣に座る課長の手前ガマンする。
課長は目を閉じて腕を組んでいた。
そこそこ飲んでいたようだから眠いのかもしれない。
運転手さんも話しかけてこないタイプみたいでありがたい。
…暫し窓の外の様々な色の灯りが流れていくのを見ていると、課長が私の名前を呼んだ。
「田上。」
「はい。」
顔を窓から課長の方に向ける。
「…泣いたのか?」
「え…?」
突然の、そして一番聞かれたくない質問に狼狽える。
「…クリスマス前なら、田上の様子が気になって話をした頃だな。」
「……」
何も言えずにいると、フッと課長が小さく笑ったような気がした。
「俺の前では泣けないか…」
「…あの?」
「藤野さんには話せても、俺には無理なんだな…」
低く呟くような声は少し硬くて、なんだか咎められているような気さえして、悲しくなる。
「…はい、課長には言えません。それに、想さんにも話してません。想さんは、ただ…」
…ただ、抱き寄せてくれただけ。
・
最初のコメントを投稿しよう!