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それから何も言わない課長は何を考えているんだろう。
その横顔に話しかける。
「…課長にも、想さんにも話さないのは、それがどうにもならない事で、自分の中で消化していくしかないからです。」
課長がゆっくり私の方を向いて、目が合った。
…もしかしたら、この気持ちを打ち明けたら一番分かってくれるのは課長なのかもしれない。
大好きな凪子さんがもう居ないと知った事。
惹かれ始めた人が凪子さんの恋人だった事。
そして今は居ない凪子さんの存在に嫉妬する私。
けれど、それは課長をまた辛い気持ちにさせるに違いないから、
だから言えない。
「…ああ、そういう事は、確かに、あるな。今更どうしようもない事だと分かっていても、…身動きができなくなる程、捕らわれて、苦しくなる。」
遠くを見るような目をした課長の表情に、私の胸が痛くなる。
「自分で消化するしかないにしても…あんまり溜め込むなよ。」
「…はい。」
「俺の前で泣いてもいいぞ?」
急にからかうような口調。
「…もう泣きませんよ。」
だから私も軽い口調で返す。
「なんだ、一度抱きしめてみたかったのに。」
…やっぱり酔ってる?
「だ、ダメですよ。あ、それに前に非常階段のところで、一度…」
ふと思い出した、課長の腕の感覚。
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