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「…ああ、あれは出会い頭の事故みたいなものだし、…でも」
でも?
あっ、でも。
タクシーがもう私のアパートに近い駅前通りに入っていた。
「すみません、運転手さん。この先の十字路の手前で止めて下さい。」
「そこでいいのか?」
「はい、そこを右に入ってすぐなので。」
「運転手さん、右に入ってください。…危ないからな。」
「あ、ありがとうございます。」
私は財布を出して此処までの乗車賃を課長に渡そうとしたが断られてまたお礼を言った。
アパートの前でタクシーが止まる。
「ありがとうございました。」
「いや、また明日な。」
「はい。おやすみなさい。」
「おやすみ。…すぐ部屋に入れよ。」
私は頷いてタクシーを降りて階段を上がる。
部屋のドアを開けた時、タクシーは走り出した。
上司として部下を気遣ったのか、男として女の私を心配してくれたのか…
さっきの 「でも」の後の言葉も気になるけれど、聞かなくて良かったのかもしれない。
今夜の課長は酔ってたから。
私はドアを閉めると誰もいない部屋に「ただいま」を言ってブーツを脱いだ。
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