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私にとっては緊急事態の電話だけれど、結局は私用だから、すみません、の意味を込めて課長に頭を下げる。
課長も、分かった、というように片手を上げてくれた。
相手が想さんだと分かるだろうか…。
出て行く様子がない課長に背中を向ける。
『…今から取りに伺います。』
「えっ?」
『お預かりして直しておきますので、帰りに寄って下さい。』
「…でも、それじゃ、」
『…僕が鈴さんに会いただけですから。』
「え…」
『取りに伺えば今日は二回、鈴さんにあえるでしょう?』
想さんの突然の甘い声に狼狽える私の顔は多分赤くなってる。
『すぐ行きますから、待っていてくださいね。』
そう言って電話は切れた。
「あっ、想さんっ。」
想さんに掛けた言葉は本人には届かず、私の後ろで机に向かっているだろう人には聞こえた筈。
通話が切れているのを確認してそっと振り向くと、椅子に座って腕組みをしている課長がこちらを向いていて、私の顔を見ていた。
「あ、すみませんでした。」
「いや、」
ゆっくり立ち上がった課長は、目線をメガネに向けながら私の隣に立った。
「藤野さんに?」
「…はい。取りに来てくれるそうです。」
「そうか。」
そして課長はフッと笑った。
…何?
「田上。耳、…うなじまで、赤い。いつもは真っ白なのに。」
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