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「えっっ」
慌てて耳からうなじにかけて両手で隠すように覆う。
そんな私を余所に課長は壊れたメガネをちょっと持ち上げて聞いてきた。
「一体どうしたんだ?」
気を取り直して、台車を避けきれなかった事を話す。
「ぶつかったのか?ケガは?」
顔を覗き込んできた視線を避けて横を向き、「大丈夫です」と返す言い方がつっけんどんになるのは、仕方ないと思う。
「全く、しっかりしてるようで…」
「何ですか?」
首に手を当てたままチラリと課長を見れば、今度は課長が目を逸らして
「いや、…藤野さん、来るんだろう?」
と言って背中を向けると、ギシッと音を立てて元の椅子に座った。
「あ、はい。」
…急がなきゃ。
私はロッカーからメガネケースを出してきて、ハンカチの上のメガネを入れると、事務所を飛び出した。
…何だか課長の態度、おかしかった、と思いながら。
少し売り場で待っていると、想さんはやって来た。
ルックメガネの制服にコートを無造作に羽織って、早足で近付いてくる想さん。
少し息を切らして、私の前に立って微笑む、メガネ男子。
「…鈴さん。」
…走ったの?少し髪が乱れてる。
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