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「では、直しておきますので、帰りに寄って下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
「…メガネ無くて大丈夫ですか?」
心配そうな顔で聞く想さんに、
「目を閉じても、とまでは言いませんけど、慣れた場所なので大丈夫です。」
と笑ってみせると、想さんは頷いて、すっと私の頭を撫でて微笑んだ。
「では…」と立ち去る想さんの背中を見送りながら、気がつくと私の両手は耳の辺りを押さえていた。
それからは、会う人会う人「あれ?メガネはどうしたの」とか「イメージ変わるね」とか声をかけてきて、少し落ち着かなかった。
「田上。」
閉店後、終礼を終え急いで帰ろうとしていた私は、紳士服売り場から駆けてきた北島に呼び止められた。
「ウチの商品の台車にぶつかったんだって?あのバカには気をつけろって言っておいたから。ごめんな。」
「大丈夫よ。私も不注意だったから、あのバカ、とか言わないの。」
そう言う私の顔をジッと見た北島は、少し赤い顔をしてる。
「久々、メガネ無しの顔見た。…って、傷あるぞ?」
もう、ほんの小さなものなのに。
「ああ、全然平気。メガネも今、直して貰ってるし。」
「…ふぅん。そっか。」
あ、余計な事言ったかな、と思ったけれど。
「なら良かった。じゃあな、お疲れ。気をつけてな。」
「うん、お疲れ様。お先にね。」
…ありがと、北島。
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