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「…鈴さん、こちらに座ってください。」
想さんがさっきまで座っていた椅子をカウンターに向け直しながら促してくれる。
「では、足立さん。今日はこれで…」
けれど、自分に向けられたその言葉を足立さんは遮った。
「室長っ。メガネのフィッティング、見ていっていいですか?私、店舗の経験がないので、参考に。」
その言葉に想さんの眉がピクリと動いて、
「…そうですね。」
と考えるように呟いた後、困った顔で私を見た。
「鈴さん。」
…そんな顔しないで下さい。
だから笑って、
「はい、大丈夫ですよ?」
と頷いた。
「ありがとうございます。田上さん。」
足立さんの笑顔に、私も「いいえ」と笑顔を返す。
想さんが私のメガネを持ってカウンターの中に座る。
足立さんも私の隣に少し離れて座った。
「わ、綺麗に直ってる。ありがとうございます。」
ホッとしたのと嬉しいのとで少しテンションが上がった声を出した私に想さんがクスッと笑った。
「いいえ。やっぱり少し歪んでいました。鼻当ての部分も。…ここ、痛いですか?メガネかけられますか?」
想さんの指先が小さな傷に触れるか触れないかの所で止まる。
「だ、大丈夫です。」
足立さんが隣にいるのに…。
狼狽える私に想さんはいつものように微笑んだ。
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